今度の日曜日の2月14日はSan Valentinoの日、バレンタインデーである。
恋のキューピッドがあなたの恋人へ愛を届けてくれる日と信じられている。
恋のキューピッドは日本ではエンゼル、天使とか言われ150年前の日本の開国時期に当る明治維新(日本ルネサンス)と共に西欧から入ってきたものと考えられている。日本の重要文化財にもなっている長野県松本市にある開智学校にはいかにも西洋のものを真似たキューピッドがいる。でも右側のキューピッドは中年のオジサン風でなんか変。重い看板を担ぎ上げているようにも見え、まるで彫刻大工が苦労している自分の姿を彫り込んだ様にも見える。
このようにそれぞれの時代、地域によってキューピッドはレインタープレットされてきたことが分かる。
このキューピッドは先回紹介したイエズス会のイグナシオ ロヨラの聖窟教会に彫られたものである。両側の天使は裸のこどもに翼を付けて可愛く飛んでいるが、真中に立っている人はやはり翼を持っていて槍を持って強く偉そうにしている。
天使にも階級、ヒエラルキーがありそうである。
この人も翼を持っているので天使とは呼べると思うがキュ−ピッドとは呼べないような気がする。すると日本人が普通に天使と呼んでいるが、カワイイキューピッド=天使ではなくキューピッド+α=天使ということになる。
これはユネスコの世界文化遺産にもなっている12世紀カタルーニャロマネスクの至宝、タウィにあるサンクレメンテ寺院、後陣アプシスの丸天井画である。これはカタルーニャ美術館にある本物のフレスコ画の写真である。ここには可愛い裸の天使は描かれていない代わりに、丸天井、中央キリストを取り囲むようにして4大天使ガブリエル、ミカエル、ラファエル、ウリエルが描かれている。大天使は背には6枚の翼を持っている。可愛い裸のキューピッドとは全く違う天使像であるが、もともとはこの4大天使からきていて、愛の使いのキューピッドは、イタリアルネサンス期にローマ神話のエロス神=ヴィーナスの使いとしてレインタープレットされたもので、それが広まったものと考えられる。
その下には4福音書使徒のライオンのマルコ、人のマタイ、人のヨハネ(鷲として描かれることもある)、牛のルカは翼を持って描かれている。この丸天井の部分は天界を表し、その下の聖人たちは神の家=教会でその下には獣たちがいる地上世界が描かれている。
天上界は地上以上に厳格なヒエラルキー=階層が存在するのである。
特にヨハネの黙示録にも出てくる大天使ミカエルは、悪魔のシンボルの龍を打ち負かした天界の英雄としての信仰が厚く、キリスト教だけてなく世界的に守護神として奉られている。ミカエルはスペイン語ではミゲル、英語ではマイク、マイケル愛称でミッキー、ミック、フランス語でミッシェルに変化するが、有名人にも、マイケル・ジャクソン、ミック・ジャガー、ミケランジェロ、ミッキー・マウス等など人気のある守護神である。
よって、イグナシオ ロヨラ聖窟教会の可愛い裸のキューピッドに挟まれ、槍を持って強くて偉そうに立っているのは龍=悪魔を退治した大天使ミカエルだと思われる。
私の住んでいるサンクガットの教会は王立修道院としてモンセラットと同時期にベネディクト派の教会として9世紀に創建された由緒あるものであるが、教会内に入るといろいろな聖人を奉った礼拝堂があり、それが16,17世紀スペインルネサンス、バロック期のものが多いことが分かった。キューピッドと大天使が混在して祭壇を豪華に飾っている。
安土・桃山文化はイエズス会修道士により西欧ルネサンスのキリスト教文化が入ってきたが、江戸時代になると鎖国政策によりキリスト教禁止となる。そして、イエズス会の印刷物でも、可愛いキューピッドの図柄だけは許可され西欧のものとして珍重されたらしい。
この印刷物はグラナダのイエズス会の神父で、彫刻、建築にも造詣の深かったプラドが、エル エスコリアルを建設中であったフェリッペ2世の為に描いた本の表紙である。
日本の可愛いキューピッドは、当時のハイテクの『複製技術』であった印刷物によって、実は上の写真のようなスペインのイエズス会のものが伝わったらしい。
バルセロナの旧市街のゴシック地区にはルネサンス期の建築が少ないとされているが、カテドラル近くの路地を入ったネリ広場あたりにある教会の入口にはこのように可愛いペアのキューピッドが紋章を持って立っている。
それ以外にも、靴の協同組合だった所のルネサンス期の建物にはよく見るとこのような下半身が獣でラッパを吹いている奇妙なキューピッドの姿もある。
建築イコノロギーによって西欧建築と歴史文化の知識は深まって行く。