バルセロナ建築漫遊記・未来へ

バルセロナから未来への気ままな発信です。
父=谷口吉郎を継ぐ2代目建築家=谷口吉生         ―金沢の鈴木大拙館―
バルセロナも昨日一昨日とまとまった雨が降り、すっかり涼しくなってきた。

日が暮れてから二匹の愛犬ランとマツ(ベルは6月2日未明、風太郎の部屋で息を引き取る。享年13歳。ベルは今この森の稜線のいつも休憩場所にしていた松の木の下に眠っている。)を車で森に散歩に連れて行くと、イノシシ6匹のファミリーが道路を塞ぎ、ひたすら食べ物を探しているようで動こうとしない。
それをやり過ごし少し先の所で車から降りる。
森の奥へ進んでいくと今度はホウホウと鳴き声が近づいて来て、上を見るとフクロウが飛んできて近くの木にとまった。

まだまだ自然の残っているサンクガットの森である。
これだけまとまった雨が降ってくれれば、もうすぐキノコ収穫の森となる。



この春の一時帰国では母方ゆかりの地を旅行することにした。
5年前は父方ゆかりの高崎であった。
(さらに祖父のことを調べてみると、旧制高崎中学の先輩で丸ビルに『和風堂』主人であった馬場一路(一郎)と親交があり、店に自分の作品を持ち込んでいた工芸作家であったことが分かった。『和風堂』の店名は常客であった夏目漱石が命名したとある。高崎の白衣大観音の敷地内に氏の一路堂記念館があり、その館の設計がタウトに学んだ水原徳信であった。)

いずれもブルーノ・タウトの日本美再発見と重なる旅となった。。

加賀藩の家来として金沢から江戸に出てきて、幕末は本郷三丁目の羊羹の老舗『藤むら』のところに住んでいたという母方のお祖父ちゃんの家系。それで私の大学時代までは千駄木の不忍通りで『日の出パン』というパン屋をやっていた。

祖父は店をおばあちゃんに任せ、あの界隈、今はやりの谷根千を飲み歩いていた。上野の西郷さんの銅像で有名な高村光雲の家が近くで、よく碁を光雲と打っていたらしい。それで、いつもは負けていたらしいのだけど、光雲の彫った孔子像を賭けたら勝ってしまった。

それで光雲の孔子像が家のお宝になっていたとのことである。

その像は母が嫁に来た後なくなって、どこに行ったのだろうと言っていたのを思い出す。亡き母の法事の席で長男であった叔父が、おじいちゃんの酒の飲み代になったということを言っていた。

実家を片付けていたら、立派なそれがあったことを示す掛け軸の書だけが出てきた。

それで今回の一時帰国では、母方先祖ゆかりの地、金沢へ行くことにした。祖母は尾張、名古屋出身で実家は浅草で米屋を営んでいたらしい。
これも面白い話が残されていて、祖父が若い時にその米屋の3姉妹の一人に一目惚れしたらしい。それもそのはず、浅草小町と呼ばれるほどの美人だったとのこと。それで米屋のお父さんにあなたの娘を嫁にくれと言ったのだが、嫁にやるだけの蓄えがなかったらだめだと言われたそうな。かなりの大金であったのが、勝負事には強かったおじいちゃんは、上野のサクラの大木を切る権利をどこからか手に入れ、それを売って一財産作ってしまった。

それでめでたく結婚できたとな。


先祖にまつわる前置きはそれまでにして、金沢から名古屋を縦断するコースが今回の日本の建築を巡る旅となった。

金沢では話題になっていた姉島さんの金沢近美、飛騨高山では合掌造り、そして最後は、念願であった堀口捨巳の八勝館(大学の恩師が設計に関わった。)では食事をしながらゆっくりと見学をすることにした。

上野博物館では谷口吉郎の東洋館を見て、その向かい側に吉生の法隆寺宝物館を偶然見ることができ幸運であったが、実家が九谷焼窯元であった谷口の地元である金沢でも、これも偶然開館直後の『鈴木大拙館』見ることができた。

久しぶりに興奮するすばらしい建築空間にめぐり合うことができた。
今回の一時帰国では、『谷口建築が呼んでいる!』と本当に思った。


 

鈴木大拙ゆかりの家の博物館を予想し目指していたら、この建物に出会う。

この斜に構えた玄関アプローチ、プロポーション、ディテールの繊細さ、材料の質感の的確さ、空間がピーンと張りつめていて、格好良く決まっている。
この切れ味の良い建築は正しく谷口吉生と確信する。



受付入った所。左は内部回廊と呼ばれる長い廊下。クスの大木のある庭の為に創られたかの様。廊下ほぼ中央には3角形のクスの大木を眺める窓があるこの内部回廊の壁隔てた反対側には、ミースのバルセロナバビリオンのように薄く水を張った空間に外部回廊がある。



『学習空間』と呼ばれる床の間空間風のスペース。



『露地の庭』と呼ばれる石庭。奥の黒御影の蹲はイサム・ノグチによるもの。



重厚な和紙で作られた吊障子。露地の庭からの柔らかい光の明り取りとなっている。



可動な吊障子で露地庭と縁側空間部分と内部空間を仕切る。



ミースのバルセロナ・バビリオンを感じさせる水と石の壁で囲われたピーンと張りつめた空間。



切り石の床、粗い削りの石を積んだ壁、コンクリート打ち放し壁、分厚い木ベンチ。素材の質感を混じり物無しで最大限に生かして建築を創っている。



池に迫り出した床の先の所から波紋が池全体に広がるような仕掛けになっている。



雨落しの鎖。少し前に降った雨が落ちてきて波紋の模様を描いている。



『思索の空間』と呼ばれる瞑想空間。



座禅を組む床は椅子式。



土蔵造りの漆喰白壁。



秋冬の雲の多く変りやすい日本海特有の気候と調和するように考えられた建築空間。



露地の庭。イサム・ノグチの三角・円・四角の黒御影の蹲。
| U1 | 谷口吉生 | 09:00 | comments(0) | trackbacks(0) | -
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