バルセロナ建築漫遊記

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カタルーニャの近代工業遺産 ―田園都市構想モデルのコロニア・グエル―



先週の土曜日、カタルーニャ歴史博物館(Museu d'Historia de Catalunya)企画で『繊維工業コロニー展』とコロニア・グエルを見学する会が行われた。建築家協会からは私を含め4人の参加で、後は博物館友の会のメンバーが主であった。

この博物館はバルセロナ港のレンガ倉庫を改築して15年ほど前に造られたものだ。今まで一度も訪れたことがなかったがこれを機に内部も見学した。今は冬なので港にはこのようにたくさんのヨットが帆を下げ停泊している。左、奥に見える一つだけヨットの帆を張ったように見える建物が昨年オープンしたボフィールのホテルである。


 

博物館入口。自然石の切石を棟の間に垂直の柱状、階ごとに水平に入れて、開口部はレンガをアーチ状に積み、キーストーンは自然石とアクセントを付けたデザインで積んで造ってある。



中に入ると4層吹き抜けのアトリウムがあり、外側のレンガ積みの建物のスケールからは想像できないモダンな大空間が広がっていた。

3階まで直のエスカレーターと斜路、構造は鉄骨であるが、床スラブは小梁のH鋼にレンガをボールト状に積んで連続させた当時の建設方法を用いていて、よりモダンな空間を強調しているように思える。明り取りは屋根を貫通した円筒を斜めに切り取って楕円にし、コルビュジェのラ・トゥーレット修道院の礼拝堂の天窓の手法を使っている。

多分、横浜の倉庫街の改築もここのを参考にしているものと思われるが、デザインの質、規模を比べるとかなり見劣りがしてしまう。

その展覧会を企画した近代歴史家が付いてカタラン語で丁寧に説明してくれた。それによると150年程前のカタルーニャの近代化当時、『コロニアス』と呼ばれる繊維工場団地が川の上流沿いに50〜100造られた。その水をカナルで引き込み、水力発電や蒸気を自動織機の動力元にしていた。近代の象徴として、自然の持つエネルギーを近代社会に取り込むという今流行のエコ建築を既にカタルーニャの山村で行われていたのである。



しかし、中にはコロニアスが日本でも『ああ野麦峠』で有名な女工哀史で語られるように、地方の安い労働力を使った長時間労働の劣悪な環境もあったらしい。

それの状況を改善する為に、ガウディのパトロンで工場経営者のグエルさんがイギリスの田園都市構想のユートピア社会思想の影響を受け、ガウディに計画を依頼したらしい。地下聖堂のあるコロニアル・グエルが有名であるが、工場、労働者の為の住宅、学校、劇場などの都市施設を備え、日当たりの良い丘の緩やかな斜面にバルセロナ郊外の自然と調和して計画される。広大な敷地に斜面の一番上に建つ小学校を頂点とし、地下聖堂と工場の高いレンガの煙突が底辺の大三角を形成し、工場と住宅団地が計画されている。コロニア・グエル内の計画は、ガウディの弟子のルビオとベレンゲールに任せ、ガウディは地下聖堂に専念していたようであるが、最初の全体の基本計画は関わっていたように思える。



コロニア・グエルのマスタープラン。上の頂点にある学校と工場の煙突と地下聖堂とを結ぶ底辺の二等辺三角形になる。その中線は村を貫く道路になっている。

ガウディは、工場(父)と子(教会)と精霊(学校)の三位一体でこのコロニア・グエルを近代のユートピアとしてガウディが創造しようとしていたかのようだ。
もしかして、これってガウディコード?


博物館見学後は、チャーターしたバスでコロニア・グエルへ移動。



建築修復家、アントニオ・ゴンザレス・モレノ博士によって2006年に封印されてしまったガウディのコロニア・グエル地下聖堂

ユネスコの世界遺産の指定を受け、建設途中のガウディの作品を修復&保存を名目としてガウディの芸術を破壊したと裁判にまでなるが、技術的に解決したものとして判決が下る。

ガウディの愛好者は皆この判決に不服である。私もこの修復はガウディの芸術を理解していない修復家の仕事だと思う。
以前のような感動を得られなくなったとこの見学会に参加していたカタルーニャ州の建築遺産保存のディレクターに大変残念なことだと言う。



今回のこの展覧会の企画者の一人。建築家、ジョルディ・ロジェント氏(正面右側)。150年前、バルセロナ建築学校を創設した、エリアス・ロジェントの子孫。当時、ガウディ、ムンタネール、カダファルクがロジェントから学んでバルセロナモデルニスモが開花した。ロジェントはヴィオレ・ル・デュクの信奉者としても有名で、ガウディの『日記装飾論』は多分に恩師の影響を受けていると思われる。ジョルディ氏も建築保存・再生にエネルギーを注いでいる建築家だ。

カタルーニャの建築家の血は濃くて熱いのには驚かされる。



CA l'ORDAL 1894年ジョアン・ルビオによるもの。単一のレンガ素材を使いファサード、煙突など表情豊かにデザインしている。



工場団地の斜面の一番山の手にある工場長の邸宅。CA L'ESPINAL 1900年ジョアン・ルビオによる。



レンガをただ積むだけでなく建築デザイン的に良く考えてあり、装飾的ではあるが単一部材なので建設工法も合理的である。



繊維工場跡。この煙突がコロニア・グエルの大三角形の底辺の一角となっている。



カタルーニャの建築家、オスカー・トゥスケットによってオフィスビルとして再生された。
外壁を修復しサッシは赤のアルミサッシにしてモダンにしてある。



入口のエントランス部分。鋳鉄の柱と木の梁の構造は当時のものを再生し、間仕切りはブルーのセラミックレンガを新たに焼き、お洒落な明るい通路を演出している。木の梁に付いている鉄筋の引張り材も当時のオリジナルのものという説明であった。中央は吹き抜け明り取りの受付。



外壁と構造は当時のものをなるべく踏襲し間取りはフレキシブルに、床、間仕切壁は新しい素材を用いてお洒落な明るい空間を演出している。



レンガ壁はこのように残し、補修、修復してきれいにして使う。



構造に使われた木造のキングポストトラスも当時のものを修理して使う。



通気、明り取りをする為に壁をこのようにレンガを組んで合理的に建物を造っている。



鋳鉄の円柱と木造の明り取りのあるトラス屋根。屋根に降った雨はこの円柱を通って排水される。
最小の材料を用い合理的な建設方法で最大で明るく機能的な建造物を造っている。
カタルーニャの合理主義建築の原型、プロトタイプと呼べるような建築である。

この再生された建築は、最近ヨーロッパの建築賞を受賞したところという説明が州の建築遺産(ヘリテイジング)のディレクターのマリオナさんからあった。

ガウディのコロニア・グエル地下聖堂と共にこのコロニア・グエルの繊維工場再生がカタルーニャの近代遺産として見事に保存・再生ルネサンスされた。

この後、見学会に来た人たちとの会食となり、建築遺産を守る仲間たちとの和気あいあいとした楽しい一時を過ごした。




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